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SOHO HOUSE香港が示唆する不動産シェアリングエコノミーのブランド化

 

Soho House 香港の開業

2019年9月にSoho House香港がいよいよオープンします。昨年オープンしたムンバイに次いでアジア圏では2拠点目となりますが、東アジアでは香港が初となります。実は、北京、上海と並んで東京も候補地として常に名前は挙がっており、数年前のSoho House創業者Nick Jonesのインタビュー記事によるとSoho House東京の設計は安藤忠雄氏に依頼し具体的なビルまで決定していたようです。しかしながらその後Soho House東京の進捗状況等は確認できず白紙に戻った可能性が否めないのはとても残念です。

dezeen2016/7/7 記事より

https://www.dezeen.com/2016/07/07/soho-house-co-living-market-hires-tadao-ando-new-tokyo-members-club-nick-jones/


Soho Houseというニッチカルチャーを消費する香港

ではなぜ香港がSoho Houseの拠点として選ばれたのでしょうか。香港はアジアの国際金融都市であり、近年は特にアートシーンでの発展が目を引きます。現在大規模開発が進んでいる西九龍の文化地区ですが、その一部として年内にヘルツォーク&ド・ムーロン設計による世界最大規模の視覚文化美術館(M+)がオープン予定でありますし、アジア最大級のアートフェア(アート・バーゼル香港)も毎年香港エキシビション・アンド・コンベンション・センターで開催されています。専門家やコレクターをメインターゲットにしたアート・バーゼル香港のような大規模なアートのみならず、パブリックアートや小さな画廊など生活により密着したアートも近年増えてきており、今後は香港のアートシーンが世界にインパクトを与えると言われているまでに注目されています。またファッションにおいても2015年に香港政府が経済活性化の一環として5億HKDをファッションやブランドをPRするために投じると決定し、2016年から香港貿易観光局主催の国際ファッションイベント「CENTRESTAGE」が毎年開催されるなど近年盛り上がりを見せています。20世紀後期には「東洋のハリウッド」と称されるほど活発だった香港のフィルム産業は、現在は映画そのものは以前ほどの話題性はないように思います。しかしながら、アジア最大の映画、エンターテイメントイベントの香港フィルマート(FILMART)は既に20年以上の歴史をもち、近年では関連業界に大きなビジネスチャンスを提供するイベントとして注目を浴びています。

加えて香港は、中国に返還されて20年強が経ち一国二制度という統治体制が2047年まで続くユニークな環境下にあります。このようなアート・ファッション・フィルム熱やユニークさから察するに、他のアジア都市にはない魅力と無限の可能性が香港には存在するように思うのです。

シェアリングエコノミー時代の会員制倶楽部

1995年にイギリスで設立された会員制クラブのSoho Houseは、現在は世界中に展開するまでに成長しています(世界9ヶ国、香港は25ヶ所目となります)。

Soho House Chinago 出所:www.chicagobusiness.com

Soho House Chinago
出所:www.chicagobusiness.com

現在70,000人超の会員に対して、30,000人のウェイティングがいるとも言われているSoho Houseは、他の会員制クラブにもあるようにクリエイティブな産業従事者が対象であり、20代を対象に割引会費を設定したり、既存会員の推薦が必要であったりしますが、最大の特徴はその規模です。会員の形態にはEvery House(全てのSoho House)とLocal House(地元のSoho House)があり、Every House会員になると世界中のSoho Houseを利用できるのです(除く:MalibuのLittle Beach House)。例えば香港の例を挙げてみるとEvery Houseの年会費は28,000HKD、Local Houseは22,000HKDのため、一つの拠点に留まらずグローバルに活躍するクリエイティブ産業の人にとってEvery House会員は魅力に感じるでしょう。世界の他の提携会員制クラブではなく、Soho Houseを利用できるわけです。



『食べる・飲む・寝る』の建築

創業者Nick Jonesの経歴を紐解いてみると、Soho Houseの基本理念である「会員のために自宅から離れた心地いい家を提供する」(to create a comfortable home away from home for our members)も理解できるように思います。Nickは10代になった頃に学習障害と診断され17歳の時に学校を中退し、当時そのような彼が働ける仕事といえばサービス業くらいしかありませんでした。彼のキャリアはケータリングの仕事からスタートし、決してエリート街道をひた走ってきたわけではないのです。もともと仲間を家に招いて心地よい時間を過ごすことが大好きなホスピタリティに富んだ両親のもとで育ったNickにとって、サービス業に就くことは自然な流れだったようで、「食べる、飲む、寝る」という誰しもが毎日の生活の中で欠かせない3つの行為を楽しんで欲しい、というシンプル且つ明確な思いが創業時から今に至るまで彼にはあるのです。

その後数年間イギリスの大手ホテル、レストラン運営会社(Forte Group)のホスピタリティプログラムに従事し、紆余曲折の後1992年にCafé BohemeをロンドンのSohoにオープンしました。1995年に最初のSoho Houseがオープンするわけですが、それはCafé Bohemeの2階が空室になったことでオーナーから声が掛ったことがきっかけでした。そんな偶然からはじまったSoho Houseが、25年後にここまで成長することは当時誰も想像しなかったでしょう。

不動産リーシングの新たなファッション

世界各地のSoho Houseは、その都市らしさを最大限に活かしつつ、会員にとっての心地よさや利便性を追求して立地、内装、提供するサービス等を決めています。Soho House香港は構想から10年の歳月を経てこの度オープンします。これほどまでに時間を要した最大の理由は、香港では好立地で且つ長期リース契約を結べる物件を探すことは至難の業だからです。そのような厳しい条件の中でコングラマリットの一つである南豊集團(Nang Fung Group)との縁に恵まれ、上環地区にてSoho House香港の開発を進めました。南豊集團は、繊維産業で成長し現在は主に中国本土並びに香港の不動産開発をしており、昨年オープンしたThe Millsという複合施設は、紡績工場をリノベーションし、オフィス、ショップ、ワークショップルーム、そしてリノベ前の紡績工場の歴史コーナーも設けるなど新旧の融合と多様性が話題となりました。

The Mills

The Mills

Soho Houseは変質するのか?

Soho House香港の目玉は何といってもその規模で、28階建てのビル1棟全てを占めており120,000sqft(11,148㎡)にもなります。現時点でSoho Houseの中で最大の規模です。そして注目すべき点は、Soho Works(シェアオフィス)が9フロア分、Soho Active(ジム)が3フロア分も占める点です。weworkの急成長からもわかるように、世界的にシェアリングエコノミーの需要が高まっています。そして働き方も多様化する流れの中で、空間や建築の形態も益々多様化していくことが予想され、Soho House香港は独自のユニークさを残しつつまさに時代の流れを具現化した一例であるのです。仕事をしながら飲食を堪能し、合間にジムでリフレッシュして健康管理をし、似た産業で活躍する人同士でプライベートな交流を深めつつビジネスへとつなげるという、公私の隔たりが極めて少ない心地よいhome away from homeとなるでしょう。

Soho Houseが香港の人々にどのように受け入れられ、街に溶け込み、高層ビル群の中で如何に存在感を出せるか、その成功が今後の東アジアでの展開を大きく左右することでしょう。そして候補地として挙がっている北京や上海は南豊集團と再度組んで手掛けるのか、はたまたSoho House東京は近年中に実現するのか、今後の動きから目が離せません。