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日本最大級の内幸町再開発 - 都心複合開発の総決算プロジェクト

 

内幸町再開発は日本の都市再開発の到達点になるか?

2022年3月、内幸町一丁目街区の再開発を推進する事業者(三井不動産やNTT、帝国ホテル、第一生命、東京電力等名だたる伝統的大企業10社)によりTOKYO CROSS PARK構想が発表されました。都心最大級の総延床面積110m2に及ぶ複合開発プロジェクトであり北街区、中街区、南街区に分けて日比谷公園とつながる次世代スマートシティを実現しようというもの。130年を超える歴史を持つ帝国ホテルの建て替えも非常に話題になりました。「人が主役の街づくり」「街づくりXデジタル」「おもてなしが広がり、人が集う街へ」「すべての人々のwell-being」「持続可能な街・社会へ」の五つのテーマを掲げ、パブリックスペースの重視、DTC(デジタル・ツイン・コンピューティング)を実装した高度な都市OS(情報基盤)の実現、ホスピタリティ機能を軸にした様々な住宅系施設の複合、街区一体となった電化や省エネルギー等の取り組みや、再生可能エネルギー等の最適な組み合わせ・調達等、今の不動産開発が目指すべきテーマが網羅的に実践された、いわば日本の都市再開発の到達点といえる構想かと思います。今や次世代のグローバル・アーキテクチャー伝道師と個人的に位置付けている PLPアーキテクチャーをマスターデザインアーキテクトに迎え、既にいくつかの洗練されたレンダリングも併せて公表されています。内幸町・日比谷エリアは丸の内、銀座、霞が関、新橋、と異なる性格のエリアの結節点でもあり、村野藤吾設計の幻想的な日生劇場(1963年竣工)や日比谷シャンテ等、元来多様なカルチャー集積が進んでいた場所。そこに大阪の梅北開発I/II期を合わせた規模の再開発が進むということで、大阪駅周辺エリアと並ぶ国内随一の超機能複合型都市が現れることが予想されます。また、NTTグループが事業者の中核として名を連ねていることから、BIMや建築生産・管理情報のデジタル化を基盤にした本格的なデジタル・ツインの実現も期待できます。

巨大な内幸町再開発プロジェクト

出所:PLP Architecture
https://www.plparchitecture.com/tokyo-cross-park-vision-mixed-use.html

内幸町再開発の建築プログラム

出所:三井不動産(株)ホームページ
https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/news/2022/0324/

三井不動産の壮大な仕掛け

本プロジェクトを主導する三井不動産は、2018年に六本木に続く東京ミッドタウン日比谷(三信ビルディング、日比谷三井ビルディング(旧三井銀行本店)の建替プロジェクト)を開業し、かねてからこのエリアを日本橋に続く最重要拠点として位置付けていた模様です。さらに遡ること10年、2007年に米系ファンドのサーベラスが買収した国際興業が持つ帝国ホテル株を取得、資本提携に持ち込みました。

帝国ホテルは1890年(明治23)年、明治政府の要請を受けた渋沢栄一翁が各財閥の出資を得て、外国人接遇用として開業したまさに日本の近代史を物語る名門ホテル。ただ、戦後は内紛と乗っ取りにさらされた歴史でした。帝国ホテルのメインバンクであった第一勧業銀行(現:みずほフィナンシャルグループ)や東急、戦後の大物フィクサーである小佐野賢治等が入り乱れる株の取得戦の結果、国際興業を率いる小佐野の経営権確保で乗っ取り合戦には終止符が打たれました。その後、当時のUFJ銀行の不良債権問題と大口融資先対応の中で国際興業が保有する帝国ホテル株式が、ハゲタカファンドと呼ばれた米系屈指の投資ファンドであるサーベラスに売却され、その後三井不動産がその株式を取得したという流れです。三井不動産は拒否権を確保しないギリギリの議決権数ながらも、老朽化して徐々に競争力を失うことが明らかな帝国ホテルの建替資金のスポンサーとしても実質的にはその意向を反映する形での投資判断にもっていったというところかと思います。

かつての帝国ホテルオーナーだった小佐野賢治

出所:経済界ウェブ
https://net.keizaikai.co.jp/15192

三井不は、その後2017年には傘下のJREITで保有していたNBF日比谷ビルを取得。NBF日比谷ビルを挟んで帝国ホテルと対峙する形で立地するNTT日比谷ビルの動向が業界でも注目を集めていましたが、NTT日比谷ビルもNTTグループにとって大手町と並ぶ旗艦ビル。機会があれば再開発したい、という意向をくみ取り、さらにその南側の旧第一勧業銀行本店や東京電力本社ビルも取り込む形で異例の巨大プロジェクトとして立ち上げてきました。都心部の大規模複合開発といえば森ビルがそのパイオニアであり続けていますが、資金力ではるかに上回る三井不は、六本木ヒルズを追いかけるように建設した東京ミッドタウン(六本木)をその先駆けとして、日比谷、日本橋、八重洲、外苑前等のエリアで巨大なミクスト・ユース開発を推進しています。10年以上かけて建設される内幸町はその総決算となるでしょう。

レンダリングからもESGコンシャスで人に優しいことが伝わるPLP Architectureの超優等生的デザイン

出所:Archdaily
https://www.archdaily.com/979532/plp-architecture-unveils-masterplan-of-tokyo-cross-park-vision?ad_medium=gallery

ホスピタリティとレジデンスの都心集積

TOKYO CROSS PARK構想では、ホテル開発面ではその中核となる帝国ホテル建替が注目されていますが、その他にも帝国ホテル新本館が建設される北地区ノースタワー上層部にサービスアパートメントと賃貸住宅が、中地区上層部セントラルタワーにはNTTグループと帝国ホテルによるスモールラグジュアリーホテル、南地区サウスタワーにも"well-being"をテーマにしたホテルが配置される予定とのこと。大手デベ各社はオフィス賃貸に依存しすぎないプロジェクトの在り方を追求していますが、ホスピタリティとレジデンスはそれに代わるプログラムの最有力、というかもはやそれしか残されていない、という気がします。ニューヨーク・ミッドタウンの都心の最有効利用は超ラグジュアリー・レジデンスの分譲、というのが定石ですが(最先端の超高層オフィスビル開発は一部の例外を除くとハドソンヤードやダウンタウン等ややど真ん中から外れてきています)、東京もそのような姿に近づいているのでしょう。国や都の都市政策面では変わらず東京の国際金融都市化、が標榜されていますが、残念ながら難しい目標と言わざるを得ないと思います。今後はポストコロナを見据えたインバウンドの回復・成長と国内の観光関連ビジネスの復活が見込まれます。国内外の様々な来訪者にどれだけ多くの魅力的なオプションを提示でき、選ばれる滞在拠点・居住拠点を作り上げることができるか、今後の複合開発プロジェクトの明暗を分けることであると思います。

歴史と分厚い商業集積が新興国との差別化

その時に、独自の強いコンテンツを持っていることが各プロジェクトの競争力を左右します。うめきたや大阪駅周辺の大規模再開発(今後は阪急梅田駅の再開発が予定されているようで、大阪駅周辺エリアの都市的拡がりの凄さを実感します)が魅惑的な観光資源の宝庫としての関西エリアの中心部であるという地の利に加え圧倒的なグルメ・食によって人々を惹きつけます。森ビルは富裕層と外国人を明確なターゲットとして、彼らの高い要求を満たす住環境を生み出すことにフォーカスしているようです。では、内幸町の差別化コンテンツは何か?キーワードは『明治以降平成以前』ではないでしょうか?先述の帝国ホテルや日生劇場を取り巻く昭和史そのものといえる歴史の記憶、銀座に近接する商業と食のエンターテイメントの潜在力、こうした土地に染み付いた歴史がもたらす濃密な気配がこのエリアにはあります。PLPアーキテクチャーが描き出すESG的であまりに優等生すぎるレンダリングの数々。その裏にある分厚い歴史と文化のDNA。これを染み出させていくことが、煌びやかだがそれでしかない新興国のプロジェクトとの明確な差別化要因になり、多くの人々を惹きつける真のミクストユースが実現するものと楽しみにしています。

隣接する昭和の名建築:日生劇場

出所:大林組
https://www.obayashi.co.jp/works/detail/work_2101.html