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アーバンプロデューサーの先駆けだった日本の鉄道事業者【2】

 

生まれ変わる渋谷 - マニアックなエンターテイメントシティに向けて

日本が誇る進化した駅公共交通一体型都市開発。東の横綱を見てみましょう。東京は大阪と比べると都心の核が分散しているように思われます。大阪・梅田のような圧倒的な集積はなく、東京駅周辺、新宿、渋谷、池袋、品川といったJRの駅、また大阪以上に発達した地下鉄網を活かした山手線内部の集積(虎ノ門や六本木)、と分散しています。ここでは、ここ数年ものすごい勢いで生まれ変わっている渋谷を取り上げます。

民鉄の雄である東京急行電鉄は、100年に一度といわれる東京・渋谷駅周辺再開発に着手しています。既に「渋谷ヒカリエ」が完成し、東横線の地下化も2013年に完了していますが、2018年にはGoogleが移転してくることで話題を呼んだ「渋谷ストリーム」が開業、さらに「エンターテイメントしぶや」を目指した大規模な都市の更新が進められています。今年11月には「渋谷スクランブルスクエア」が開業予定(東急電鉄とJR東日本、東京地下鉄の共同事業)。屋上には都内でも屈指の高さとなる地上230mの屋外展望施設「渋谷スカイ」が設けられるとともに、ミクシィ、サイバーエージェント、日本国内最大級の規模となるWework等のオフィス、16層にもわたる大型商業施設、がJR、東京メトロ銀座線、東横線等複数の公共交通網の結節点上に組み合わされる超機能複合ビルです。駅直結の商業施設が強いことはルミネやアトレの好調を見ても明らか。オフィスについてもかねがね渋谷には大型の床スペースがなく賃料が高止まりしていたところ、再びIT企業の集積を目指すかのような流れで、東京都内各地で建設が進められている再開発プロジェクトの中でも高い競争力を維持すると思います。

意気込みが違う渋谷駅周辺再開発チームの陣容

渋谷駅は、6駅8路線の鉄道施設とともに都内最大のバスターミナルを有する大規模結節点であり、1日の鉄道利用者数も新宿駅に次いで全国2位です。渋谷駅周辺はこうした交通利便性を背景に、商業・業務機能を中心に発展してきたわけですが、特に音楽、ファッション、映像などのクリエイティブ・コンテンツ産業の集積が極めて高くなっており、独自の文化や産業を形成・発信してきました。背景にある東急沿線の比較的所得の高い消費者層の存在もその経済的基盤の背景にあります。

渋谷駅周辺は、2005年12月の都市再生緊急整備地域の指定を受け、渋谷駅周辺の課題を解決するための公民のパートナーシップによる「渋谷駅街区基盤整備検討委員会」が設置されたのを契機に、2009年には、渋谷駅再編整備の骨格となる土地区画整理区域や都市施設等が都市計画決定、周辺エリア一体の再開発の機運がさらに高まったことから、「渋谷駅中心地区まちづくり検討会」が設置されました。これに基づく上位計画の策定等を受け、2012年4月には「渋谷ヒカリエ」の開業、2013年3月には東急東横線の地下化と東京メトロ副都心線との相互直通運転開始に至ったのです。その後、「渋谷駅地区駅街区」、「渋谷駅地区道玄坂街区」、「渋谷三丁目21地区」、「渋谷駅桜丘口地区」の四か所の再開発計画策定に至り、現在順次建設工事が進められているところです。

これらの再開発では、おそらく実施設計に至るまでの全プロセスを主導すると思われる日建設計の他に、隈研吾やSANNA、シーラカンスアンドアソシエイツ等の著名建築家が主にデザインアーキテクトとして参画しており、東京の再開発プロジェクトの中でもデザイン面でひときわ存在感を放つものになることが期待されます。事業者自らの手により超高層ビルの屋外展望スペースの構想が発案される等、それぞれの地区で発表されている計画のパースはいずれも意欲的なイメージを持っています

日建設計や東急設計コンサルタント等に加え隈研吾やSANNAが参画した渋谷スクランブルスクエアの幻想的なイメージ図

日建設計や東急設計コンサルタント等に加え隈研吾やSANNAが参画した渋谷スクランブルスクエアの幻想的なイメージ図

既存の豊かな商業基盤の集積が駅ビルの原型に

旧国鉄時代の駅ビル文化というのは、もともと渋谷の「109」のような形であったといわれます。「109」ではオープンする際に、地元にあったお店がテナントとして入った、即ち、渋谷にあったお店が共同で土地やお金を出し合って、「みんなで入ろう」という形でスタートしたのが「109」の出自であったわけです。駅ビルも、商店街の人たちが「地元の駅の玄関をかっこよくしよう」「テナントとして入れるようにしよう」といった動きがあり、旧国鉄が戦後復興の中で、駅舎を整備するときに、地元と共同でビルを建てたのがその出自となりました。国鉄は箱を貸すだけで、テナント経営は駅ビル運営会社が仕切って、地元の商店が入れるようにした仕組みです。このため、都市の駅ビルは交通結節点としてのハードの箱もの・インフラとしての役割に加え、それぞれの地域のローカルな商業集積や文化、キャラクターが濃密に反映されたのです。今でも、東京や大阪等の大都市圏の鉄道ネットワークを見ると、各沿線ごと、各駅・エリア毎の個性が豊かに反映されており、一つの文化圏を形作っています。例えば、東京の中央線沿線はサブカルのメッカとして認知されていて、「中央線中毒(チュウオウセンチュウドク)」なるWebsiteも運営されていますが、各駅毎のスポットの紹介や住宅やオフィスの賃貸情報等、沿線ライフを支援する情報提供がされています。

東急不動産が開発する「東急プラザ渋谷」もこの秋の開業が計画されています。テナントリーシングのコンセプトは「美」「健康」「食」「ライフプランのサポート」、だそうで、従来の東急プラザシリーズより高めの顧客層がターゲットされているといえるでしょう。

旧東急プラザ渋谷が開業したのは1965年。民間デベロッパー初の専門店複合商業ビルと言われました。東急沿線の主要駅前の商業施設として沿線住民の生活やエンターテイメントの場を提供することをコンセプトにシリーズ化されてきた東急プラザですが、渋谷店はまさに高度経済成長期と並行する形で若者の流行の発信拠点として親しまれてきたわけです。当時若者だった人たちが今の50代や60代の「成熟世代」となっているわけで、「東急プラザ渋谷」のメインターゲットがそのような顧客層になっているのは、単に若者が集まるファッション、エンターテイメントの中心としての渋谷に合わせた施設コンセプトにアップデートするというわけではなく、むしろ昔から渋谷の地に親しんできた世代の場所の記憶を呼び起こすような不動産開発が目指されているとも言え、大変興味深く感じました。

東急プラザ渋谷の完成予想図 出所:東急不動産ホームページ

東急プラザ渋谷の完成予想図
出所:東急不動産ホームページ

建設中の渋谷スクランブルスクエア

建設中の渋谷スクランブルスクエア